【書評】中国版「キャッツ」!?今こそ映画化して欲しい失敗作「猫城記」
映画版「キャッツ」が公開された。
Twitterやネット民の評価が耳に入っていなかったわけではないが、私もノコノコ観に行った。
ミュージカル版を知らないため、それほど絶望的な感想を持ったわけではないが、確かに賛否が分かれるな・・・とは思った。一つ言えるのは、良くも悪くもインパクトがある作品だったという事。
映画の話はそこそこにして、今回は老舎の「猫城記」について書きたい。
ミュージカル「キャッツ」には0.01ミリも関係ない。
写真を見てもらったら分かるとおり、「キャッツ」の中国版・・・ではなく、立派な(?)中国SFである。希少本に詳しい方は、このインパクトのある表紙に見覚えがあるのではないだろうか。
中国SFといえば、ジウ・リーチンの「三体」が大ブレイクしている。
他にもケン・リュウなどの中国系SFは隆盛を極めており、独特な文化圏とテクノロジーが合わさった物語は大変面白い。
サンリオSF文庫によって刊行されたこの本は、令和中国SFブームにはるかに先んじた、時代を先取りしすぎた一冊となっている。
サンリオSF文庫とは、あのサンリオが1978年から1987年まで刊行していたSF文庫シリーズ。学生に翻訳させた残念なものもあるが、いまだにこのシリーズでしか翻訳されていないものも多く、一部の本はプレミア価格がついている。
これとか15000円くらいする。
その中でもまあまあする方の「猫城記」(8000円)。
自国風刺に満ちたSF。中国は今でこそ経済大国。
しかし老舎の生きた時代は、そうではなかった。
袁世凱が中華民国の臨時大総統になったものの、外からは帝国列強の干渉を受けていた。
また、国内では直隷派や広東派やらあらゆる軍閥が厳しい徴税の末に農民を私兵にしていたとも。
当時の中国の様子を風刺的に描いたSFなのだが、SF要素というのも「火星に不時着した地球人が主人公」という点のみで、残りは基本的にごまかし屋で身勝手な猫人たちの描写である。
老舎本人も「失敗作」と述べており、読み物としてもちょっと読みづらい部類だ。(フリッツ・ライバーの「ビッグ・タイム」よりはマシかも)
・・・ぶっちゃけると駄作だ。
この本を「所持している」ことと、「読んだ事がある」という話題性以外、対して価値のある読書体験は得られていないかもしれない。
しかし、どことなく現代日本に通じる「ダメさ」をこの猫人たちには感じてしまう。
老舎が書く猫人は、どうにも個人主義の塊にしか見えない。目的なき革命が起こっては(豊かになりたい、という個人の思いはあるけど)革命前よりも困窮した生活に向かっていく。猫人を怠惰にする迷葉という植物だけが、彼らを(動物的欲求に、という意味で)誠実にしていく。
私です。(迷葉はやってません。
また、猫人の国には、一応、大学もある。しかし、ただお金を払って卒業するためだけのところになっており、卒業した猫人たちは大した知識や技能も身につけていない。
はい、私です。
「猫人が自ら努力をしなかった懲罰だ。(中略)人間を自任*1しない者は、人間としての待遇を受けられない」
自分のこと、めっちゃ「社畜」って言ってます。
自分自身を「社畜」と揶揄する現代の日本人が、猫人たちを笑えるのか。
ちゃんと目的持って行動しなきゃな〜と思った。
この作品、今なら神保町に行かなくても、Kindle Unlimitedで読める。
時代が中国SFに追いついた今、ちょっと話題性のあるこの本を読んでみてはいかがだろうか?
*1:自分自身でそれが自分の任務としてふさわしい、それに相当する値打ちが自分にあると思い込むこと